第5回:80年代、洋服との濃密な時間~プレイリスト ア・ラ・モード~

暮らしの中に音楽は欠かせない。車の運転中や電車での移動中はもちろん、一日の終わりにバスタブで聴くプレイリストのチョイスは最重要事項のひとつである。洋楽、邦楽に拘らず耳に残る楽曲や魅力的なアーティストのチェックは欠かせない。旬な彼らは自信に満ちキラキラと美しい。けれど、仕事の息抜きのドライブやバスルームで聴きたいのは、なんとなく 80’sになってしまう。最近80年代のJ-popが何かと話題になっているが、当時のアルバムは今聴いてもカッコよく存分に心を揺さぶる。そしてそのアルバムジャケットは時代を切り取るファッションで彩られている。

80年の冬、松任谷由実の「SURF&SNOW」が発売された。ユーミンのレコードジャケットはデビューアルバムからずっとモダンでファッショナブル。発売日に新譜を抱えて帰ると先ずはジャケットを飾り、それから針を落とした。何度かの引っ越しとCD化を経た今でもLPジャケットのまま我家の壁を飾っているのはこの1枚だけだ。アメリカのチョコレート会社のバレタイン広告を元にしたイラストは甘く華やかで、50’sの豊かなカルチャーへと胸を躍らせた。その年から冬休みは“バカンス”に名を変え、海辺のプールは“リゾート”となり輝きはじめる。初めてパンプスを買ったのもこの頃だった。コンサバなニュートラに飽きたおしゃれ女子たちはポニーテールにリボンを結び、サーキュラースカートにサドルシューズを履いて原宿の街を歩いた。ミュージックシーンはニューウェーブの流れを汲みメイクアップをする男性アーティストは珍しくもなくなり、レコードショップには個性的な装いで自分を表現するアルバムジャケットが並んだ。

尾崎亜美の「POINTS」はその頃らしいポップなジャケットになる。黒い衣装に濃い目のメイク、キャンディーカラーのデザインは小柄な彼女をよりキュートに映し、天才ポップメーカーのセルフカバーアルバムにぴたりとハマってこの上なくキャッチー。ワクワクさせる1枚だ。バブル前夜の80年代中頃、かつてのコンサバティブなファッションは肩パッドとボディコンで武装をし始める。女子大生やOLが派手なメイクとミニワンピースでディスコを席捲。その一方で都会の大人たちはインポートブランドで身を包みスマートに装いをこらした。

「REQUEST」での竹内まりやのクールな佇まいはそんな気分を感じさせる。シックなヘアメイクでグレートーンのレイヤードを無造作に着こなすさまは、現在のヌケ感信仰へのオリジンだったのかもしれない。収録曲の多くは今日もさまざまなシーンで流れ、それは聴く人の心を心地よくザワつかせる。

そうしたバブル感のさなか、山の手エリアの学生を中心にトレンドはカジュアルへとシフトしていく。リーバイス501、バンソンのレザージャケット、レッドウィングのエンジニアブーツなどメンズが牽引するかたちで渋カジという一大ムーブメントが生まれた。レディースはそれをエレガントにブラッシュアップして、ラルフローレンの紺ブレをアイコンとしたキレカジなるスタイルへと進化を遂げることになる。

アメカジのミューズだった杏里は、いつも時代の空気をさらりと着こなした。その洗練されたカジュアルスタイルは「ブギウギメインランド」のストーリーにシンクロし、大人の恋に背伸びをする女の子にとてもよく似合っていた。当時の恋にタイムスリップしたいなら今の季節に必聴の名盤だろう。

平成の時代になりレコードはCDに変わり、そのジャケットはずいぶんと小さなものになってしまった。たくさんのアーティストのジャケット写真に携わってきたが、CDサイズになってからは全身写真でのデザインはすっかり影を潜めてしまった。CDケースの中のポートレートを見ながら、このブラウスの下はどんなスカートを穿いていて、サンダルはヒールだろうかなどと想像してみる。いつの時代も女の子たちにとって、好きなアーティストのファッションは音楽と切り離すことはできない。部屋に飾りたくなるぐらい素敵なジャケットを見つけたら迷わず買ってみよう。きっと好きなはず。“ジャケ買い”には音楽プラスワンの楽しみがある。

フリースタイリスト
きつかわかずこ

テレビ番組やタレントの写真集、CMや広告などのスタイリングを中心に活動。 近年は暮らしや食、健康で美しい身体とファッションについて考察する毎日。